着物姿の女性がふと後ろを振り返る絵といえば、「見返り美人図」を思い浮かべる人もいるでしょう。東京国立博物館の作品の解説と、国立文化財機構の文化財活用センターの解説、作者の故郷である千葉県鋸南町の菱川師宣記念館の案内をもとに、この絵に何が描かれているのかを読んでいきます。
東京国立博物館が所蔵する一幅
見返り美人図は東京国立博物館が所蔵する作品で、作品の情報では、作者は菱川師宣、時代は江戸時代の17世紀、絹に色をつけて描いた「絹本着色」の1幅で、大きさは縦63.0、横31.2と記されています。館の解説は、緋色の衣裳を着た美人が、ふと振り返ったその一瞬をとらえた絵だと説明しています。絵に書き入れられた「房陽菱川友竹筆」という落款のうち、「房陽」は師宣の出身地の房州(千葉)を、「友竹」は晩年の雅号を表しています。作品に付く書き付けの中には「半面美人図」と記したものもあり、作品の情報の銘文の欄に挙げられています。2026年10月13日に確かめた時点では、館のページの展示情報の欄に、東博コレクション展に並ぶ予定は「未定」と表示されていました。
振り返る姿と、当時はやった装い
文化財活用センターの解説では、紅色の衣裳の女性が歩みを止めて振り返っており、見る側からは横顔しか見えないぶん、後ろ姿から当時の流行の装いが読み取れると紹介されています。髪は、下ろした髪の先を輪にして結ぶ「玉結び」で、このころ流行した髪型だとされています。髪にさした櫛は、高価な鼈甲(べっこう)のものと見られています。解説は衣裳を振袖と呼び、つやのある紅色の地に小さな花の地紋が織り出され、大きな菊と桜をまるく配した「花の丸模様」が散らされていて、これも当時の流行だったと説明しています。こうした模様は、鹿の子絞りのほか、絹糸や金糸による刺繍、金箔などを用いて表したものだろうと推し量っています。
帯の「吉弥結び」と、作者の生まれた家
帯は結んだ端が左右に長く垂れる形で、人気の女形役者だった上村吉弥(かみむらきちや)から広まった「吉弥結び」だと解説されています。これほど装いに凝った女性がだれだったのかは気になるところですが、モデルは分かっていないそうです。同じ解説は、きものに刺繍をほどこし金や銀の箔で飾る「縫箔師」が師宣の仕事だったことに触れ、細かな模様を描くのはお手の物だったろうと述べています。鋸南町の菱川師宣記念館の案内によると、師宣は安房国保田(いまの千葉県鋸南町保田)で縫箔刺繍の仕事をしていた家に、7人きょうだいの4番目、長男として生まれました。生まれた年ははっきりせず、寛永年間の中ごろ(1630年ごろ)と推定されています。子どものころから絵が好きで、家の仕事を手伝って刺繍の下絵を描きながら、漢画や狩野派、土佐派などにふれて独学で腕を上げたといいます。東京国立博物館の解説は、師宣が描くあでやかな装いの女性の絵が「師宣の美女こそ江戸女」とたたえられ、人気を集めたと伝えています。
浮世絵の始まりと、切手になった見返り美人
江戸に出た師宣は、まず本の挿絵の下絵を描く仕事で知られるようになり、文章を減らして挿絵を大きく入れた絵本で町の人々の人気を得ました。さらに、眺めて楽しむための木版の一枚絵も手がけ、これがのちの浮世絵版画のもとになったと記念館は説明しています。亡くなったのは元禄7年(1694)6月4日で、場所は江戸でした。故郷への思いは強く、亡くなるひと月前の元禄7年5月には、保田の別願院に親族の供養のための梵鐘を納めています。その鐘は太平洋戦争のときに金属の回収で失われ、いまは復元された鐘が記念館の前に置かれています。同じ場所には、見返り美人図を立体にしたブロンズ像も建てられています。千葉県の広報紙は、記念館では見返り美人図の複製のほか、いまでいうタウン誌や歌舞伎のガイドブックに当たる版本も展示していると紹介しています。見返り美人図は、切手の図柄としても知られています。日本郵便によると、切手の美しさを知ってもらい、切手を集める趣味を広めるために、1947年(昭和22年)に当時の逓信省が「切手趣味の週間」を設けたのが切手趣味週間の始まりです。翌1948年(昭和23年)には「見返り美人」を図柄にした切手が出て大きな評判となり、海外の切手にも影響したといわれています。
修理を終えた作品
東京国立博物館と文化財活用センターは、創立150年を記念して「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」を行い、寄附を募りました。寄附は目標の1,000万円を大きく上回ったと報告されています。2025年1月6日には修理を終えたことが知らされ、しばらくは温度と湿度の安定した収蔵庫で様子を見るとされました。修理後の最初の展示は、能登半島の復興を支援する事業の一つとして、2025年11月から12月に石川県立美術館で開かれる展覧会で予定されていると案内されていました。
まとめ
見返り美人図は、紅色の衣裳の女性が足を止めて振り返る一瞬を描いた肉筆画で、玉結びの髪や花の丸模様、吉弥結びの帯といった当時の流行が細かく描き込まれています。描いた菱川師宣は縫箔の仕事をする家に育ち、のちに浮世絵版画のもとになる一枚絵を手がけた絵師でした。振袖姿の後ろ姿を写真に残すときに、帯や髪の描かれ方に注目してこの絵を見直してみると、新しい発見があるかもしれません。
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参考にした資料
各ページの内容は、2026年10月13日に確かめたものです。


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